「筋トレと有酸素を同じ日にやると筋肉がつかない」――こんな話、1回は聞いたことがあると思います。実はこのテーマ、時代ごとに結論がけっこう変わってきた分野です。
なぜかというと、研究の側が「どこまで同時に鍛えられるのか?」という仮説を変えてきたからです。ですので今回は、1980年代→2012年→2016〜2024年という流れで整理しつつ、いまの結論=「量をやりすぎず・日を分ければほぼ問題なし」というところまで持っていきます。
ちなみに、有酸素と筋トレを同時に行うことは英語でコンカレントトレーニング(concurrent training)と言います。ここからはこの言葉を使います。
1. 出発点:1980年代「本当に両方極められるの?」の時代
まず1980年ごろの有名な研究では、トレーニング未経験者23人を
- 筋トレだけ
- 有酸素だけ(40分サイクリング)
- 筋トレ+有酸素(同時)
の3つに分けて調べました。
結果はこうでした。
- 筋肥大(筋肉の厚さ)は:筋トレだけが+2.3cm、筋トレ+有酸素でも+1.7cm、有酸素だけはほぼ増えず
- 筋力は:筋トレだけは右肩上がりに伸びた
- 筋トレ+有酸素は:7〜8週目から筋力の伸びが鈍ってきた
つまりこの段階で「同時にやると筋力が頭打ちになりやすい=干渉効果がある」という考え方が一気に広まりました。ここから、長いこと「筋トレと有酸素は一緒にすると損する」が常識になっていきます。
2. 2012年のメタ分析で一旦“決定的”になった
次にターニングポイントになったのが2012年のメタ分析です。
このときは「筋トレだけ vs 筋トレ+有酸素」を比べた21本の研究をまとめています。
評価指標は、以下の3つです。
- 筋力
- パワー(筋力にスピードが乗ったもの)
- 筋肥大
ここでわかったポイントは3つありました。
- パワーが一番落ちやすい
同時トレーニング群は、筋トレだけの群よりパワーの伸びが有意に低くなりました。つまり「爆発的に挙げる力」は邪魔されやすい。 - 筋力と筋肥大もやや下がる傾向
完全に止まるわけではありませんが、グラフ上は右肩下がりになりました。 - 有酸素の量が増えるほど干渉が強くなる
長く走れば走るほど、筋トレの効果が下がるという、ごく直感的な結果です。さらに、ランニングの方がサイクリングより干渉しやすいこともこのとき指摘されています。
この2012年の時点では「やっぱり同時はよくない」がほぼ確定したように見えました。ここまでが“前半戦”です。
3. なぜ干渉が起こると考えられたのか(メカニズム編)
ここは少し理論の話です。ただし今の実践に直結するので簡潔にします。
- AMPKがmTORを邪魔する説
有酸素をすると細胞内でAMPKというエネルギーセンサーが働きます。これが筋肥大でおなじみのmTORの働きを邪魔すると言われました。つまり- 筋トレ → mTORが働いて筋肉を大きくする方向
- 有酸素 → AMPKが働いてmTORを弱める
という“逆向きのシグナル”が同時に出るので、結果として筋肥大が弱くなる、という考え方です。2018年のマウス研究でも、AMPKが強いと筋肥大しづらい相関が見られています。
- 神経適応が逆方向になる説
筋トレは「一気にたくさんの筋線維を同時に動員する」方向に神経が適応します。だから大きな力が出るけどすぐ疲れます。
一方で有酸素は「一部のモーターユニットを交互に使って長時間動ける」方向に適応します。
この“指示の方向”が違うので、同じ日にやりまくると「どっちに適応すればええねん」と筋肉が迷う、という説明です。
この2つの理論はかなり説得力があったので、「同時はダメ」が長く信じられました。
4. 2016〜2021年:でも工夫したら干渉しなくない?という逆襲
しかしここから研究が変わります。つまり「本当に全部のパターンでダメなの?」「条件を変えたら防げるんじゃない?」という発想にシフトしていきます。
4-1. HIITなら干渉しない説 → 結果:あんまり変わらなかった
2016年の研究では、
- 週3回筋トレだけ
- 週3回HIITしてから筋トレ
- 週3回中強度サイクリングしてから筋トレ
を比べました。
HIITは「有酸素の中でも筋トレに近いから干渉しにくいはず」と考えられていました。ところが筋力の伸びはどちらも同じように少し落ちたので、HIITでも“ゼロにはできない”という結果です。つまり「強度を上げたら解決」は通らなかったわけです。
4-2. 時間を空ければいい説 → 結果:これは有効
同じ2016〜2017年ごろの研究で、筋トレのすぐ後に有酸素をやる群と6時間後・24時間後に有酸素をやる群を比べました。
すると、すぐやった群だけが干渉して、6時間後・24時間後はほぼ筋トレ単独と同じ伸びでした。
これはかなり重要で、後のメタ分析でも「24時間空けると干渉はほぼ消える」という結果が繰り返し出ます。
5. 2018・2021年のメタ分析で一気に“緩く”なる
ここが現在の考え方につながるところです。
- 2018年のメタ分析
HIITを含めた同時トレーニングが筋力・筋肥大にどのくらい影響するかを見ました。結果として、下半身の筋力だけ少し干渉が出たが、筋肥大や上半身の筋力には大きな問題はなかった、と報告されています。さらに、24時間以上空けると干渉は消えたとも書かれています。 - 2021年のメタ分析(トレ歴で比較)
同じ日にやったときは、トレーニング歴が長い人ほど干渉が出やすいという面白い結果でした。つまり中上級者ほど「有酸素でパフォーマンスが落ちた」と感じやすい。
ですが別日にすればどのレベルでも干渉はほぼ消失しました。 - 2021年の大規模メタ分析(43研究・1090人)
ここではさらに細かく条件を分けましたが、筋力も筋肥大も、思っていたほど同時トレーニングで悪くならなかったという結論です。唯一ハッキリ落ちたのはやはり**パワー(爆発的な動き)**でした。
つまり現在、正解に近い結論はこうなります。
干渉効果は存在する。
しかし、当初言われていたほど大きくない。
量をやりすぎず、しかも日を分ければ、実用上はほとんど問題にならない。
6. 実は“疲労”が一番わかりやすい説明かもしれない
ここまで読むと「じゃあAMPKとかmTORの話はどうなるの?」と思うかもしれません。
理論的には確かにあのシグナル経路は働いています。ですが、別日にしたらほぼ干渉が消えるということは、細胞レベルの干渉よりも、単純に“疲労が残ってるかどうか”のほうが現実には効いていると考える方が自然です。
2003年の研究では、有酸素をしてから
- 4時間後のレッグプレス → 回数が25%落ちた
- 8時間後でもまだ落ちた
- 24時間後にやっと戻った
という結果になっています。かなりシンプルに「疲れてたらパフォーマンスは落ちる」という話です。
さらに、ランニングはサイクリングより筋損傷や炎症が大きいという研究も複数あります。だから2012年のメタ分析でも、ランニングのほうが干渉が強く出たわけです。要するに、
- ランニング=筋ダメージが大きい→翌日のスクワットに響きやすい
- サイクリング=筋ダメージが小さい→筋トレと両立しやすい
という、非常に生活に落としやすい説明になります。
7. 今日から使える実践ガイド(Evolve版)
ここまでの研究をトレーニング現場に落とすと、だいたい次のようになります。
- 「筋トレと有酸素は別日にする」が最適解
これでほぼ干渉は気にしなくてよくなります。 - 同日にやるなら順番は「筋トレ→有酸素」
先に有酸素で疲れてしまうと、筋トレの重量・回数が落ちます。筋肥大・筋力を狙うなら筋トレを先に。 - 有酸素の量をやりすぎない
2012年の結果どおり、時間を増やすほど干渉が出やすくなります。ダイエット中でもまずは30分前後で組むと安全です。 - 走るよりバイクのほうが両立しやすい
ランニングで脚をパンパンにするより、エアロバイク・ローイングなどダメージが少ないものを選ぶと筋トレに影響しにくいです。 - 爆発的パワーを伸ばしたい競技の人は特に分ける
ジャンプ力・スプリント・重量挙げ系の人は、一緒の日に長時間の有酸素を入れるとパワーが落ちやすいので注意です。
8. まとめ
- 干渉効果はある。特にパワーで出やすい。
- しかし、昔ほど悲観する必要はない。
- 別日にすればほぼ気にしなくていい。
- 有酸素を長時間やりすぎると筋トレの伸びは落ちる。
- ランニングよりサイクリングのほうが筋トレと両立しやすい。
- だから現実的には、「筋トレの日」と「有酸素の日」を分け、どちらもやりすぎないが一番合理的。
Evolveでも、減量中のお客さまには
- 筋トレ:週2〜3回
- 有酸素:別日に20〜30分
- どうしても同日なら筋トレ→有酸素
という形でお伝えしています。筋肉は落とさず、でも体脂肪は落とす。そのちょうどいいところが、このあたりです。
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